「性のあり方も、仕事も、自ら選択する女子サッカー選手を目指していく」スフィーダ世田谷・下山田選手に聞く、アスリートと社会を繋ぐ存在への歩み方

インタビュー記事

ピッチで輝かしいプレーを見せるアスリート1人1人に、育成年代の頃の努力や周囲のサポートがあり、引退後の新たなチャレンジがある。izmマガジンではアスリートを中心にスポーツに向き合う人々のストーリーを、良い部分も悪い部分も包み隠さずお届けする。

Vol.7の今回は、学生時代ナショナルトレセンに選抜され、慶應ソッカー部で4年間活動したのち、卒業とともにドイツに渡り、海外でプレー。帰国後はスフィーダ世田谷にて選手としてプレーを続けながらも、LGBT関連の講演や起業など選手としてだけでなく、様々な活動を積極的に行う下山田選手をゲストに迎え、アスリートの一面を持つからこそできる活動によって、人生における選択の幅を広げる問いを社会に投げかけていく意義とは。

〈PROFILE)下山田志帆
慶應ソッカー部を卒業後、ドイツへ渡り2シーズンプレー。帰国後スフィーダ世田谷にてサッカー選手としてプレーしつつ、カミングアウトを経てLGBT関連の講演や、「”普通”のない日々」を作り出すことで、「生き方の選択肢」を増やすために共同で起業をし、吸収型ボクサーパンツOPTの販売などを行っている。

女子サッカーが珍しく、周りの目線がきつかった小学生時代

【izm】
サッカーを始めたきっかけは何ですか?

【下山田】
小学校3年生のときにスポーツ少年団で始めました。
もともと休み時間とかに教室でじっとしていられないタイプだったので男の子たちとボール蹴っていたのがきっかけです。

【izm】
チームは女子チームではなく?

【下山田】
そうですね、男子チームに入りました。
もう一人女の子がいたと思います。

【izm】
なるほど。小学校時代のサッカーはどうでしたか?

【下山田】
少年団はチームとしてはすごく弱くて・・
なので私が活躍できて、楽しかったです。(笑)

【izm】
当時は女子がサッカーは珍しかったんでしょうか?

【下山田】
そうですね・・
試合をしていると、相手チームの親御さんに
「女なんかに負けんじゃねえよ」ってヤジを飛ばされていました。

【izm】
なるほど・・・
相手の選手ならまだしも、親御さんからですか・・・

【下山田】
子どもながら、なす術がなかったですね・・・

【izm】
中学時代はいかがでしたか?

【下山田】
男子チームと、女子チームの活動を掛け持ちしていました。
男子チームは通っていた中学校の男子サッカー部に所属し、女子チームは筑波FCに所属していました。
普段は男子サッカー部で練習して土日の試合はつくばFCで出るという感じでしたね。

【izm】
代表歴とかはありますか?

【下山田】
中学時代はナショナルトレセンに入っていました。
県選抜から関東選抜、その後ナショナルトレセンという流れです。

【izm】
高校はどちらに通われていたのですか?

【下山田】
十文字高校です。

【izm】
十文字高校を選んだのはなぜですか?

【下山田】
サッカーもそうなんですが、勉強もきちんとやりたいと思っていて、
そうすると茨城には選択肢がほとんどなく・・・
勉強できると選択肢が増えるじゃないですか。

【izm】
なるほど、確かにそうですね。
十文字での高校生活はどうでしたか?

【下山田】
サッカーに関しては1年生、2年生は辛かったですね。
AチームとBチームを行き来する感じでしたし、
先生もすごく怒られていました・・・

【izm】
どんなことについて怒られていたんですか?

【下山田】
実は中学時代に素行が良くなくて、それが高校に報告されてたんです。
まあ目をつけられてたというか・・・
おかげで鍛え直されました(笑)

2年からはAチームで、代表にも呼ばれるようになりました。
高校のチームとしても全国で3位の戦績を残せました。

戦績よりも、このチームでいかに強くなるか、を求められた大学の4年間

【izm】
なるほど。
それで大学は慶應義塾大学に進学して慶応ソッカー部に入るわけですが慶応を選んだ理由を教えてください。

【下山田】
高校選びのときもそうでしたが、文武両道という点ですかね。

【izm】
確かに・・・
受験はAO受験でしょうか?

【下山田】
そうです、AO入試で受験したのですが、普通の筆記テストと、女子サッカーの実績、
それと大学でやりたい事を3000字で書く小論文でした。

【izm】
晴れて合格されたわけですが、慶応の大学サッカーはどうでしたか?

【下山田】
当時の慶応ソッカー部は経験者と初心者が半々で
十文字での軍隊みたいなサッカー部とのギャップがすごかったです。
戦績を求めるのではなく、このチームでどう強くなるか、を求められた4年間でした。

【izm】
大学までを含めて、ご両親はどのような関わり方をしてくれたんでしょうか?

【下山田】
最初はああしろ、こうしろと細かく言われていましたが、
歳を重ねるごとに、自分で決めたならいいんじゃないとなりましたね。

後の考え方に影響を与えた2人の指導者の存在

【izm】
指導者の方はどうでしょうか?印象的な人はいましたか?

【下山田】
私の中で二人います。
少年団のおじいちゃん監督の方は男女の分け隔てなく接してくれて
さきほどお話した「女なんかに負けるな」のヤジにも真剣に怒ってくれ、本当に暖かく支えてくれていました。
もう一人は慶応の監督の方で、初心者半分、経験者半分をまとめるのも大変だったと思うのですが、
経験者の私たちには常に視座を変えろと「ピッチの上で上手いだけが良い選手では決してなくて、味方の選手のことを考えてプレーできたり、ピッチ外でもチームに貢献できる選手こそが良い選手なんだ」と伝え続けていました。

ドイツでプレーすることになるのですが、個が強いドイツで、他の選手の良いところを引き出せる選手として評価してもらえたのは、大学時代の監督の教えのおかげだと思っています。

一般的な就活から逃れるために選んだ海外でのプレーをする選択だった

【izm】
大学から直接海外に行かれたんですよね?

【下山田】
これはあまりカッコいいこと言えなくて、実はネガティブな理由が大きかったんです。
というのも慶応ソッカー部の人たちは、みんな大きな企業に就職していくんですが、私には性格的に一般企業は無理だなと思いました。

なでしこリーグの人たちはスポンサー企業で働きながらサッカーをするんです。
良い悪いではなくて、私は与えられた仕事をこなしていくのは向いていないと思って・・
だったら海外で仕事としてサッカーをしてみようと思いました。

【izm】
なるほど、エリートコースを歩いてきたと思うんですが違う道を選んだんですね・・

【下山田】
私は全く協調性が無いんです。
だから絶対に辛いなとわかってたのでそのような選択を選びました。

【izm】
ドイツでのサッカー生活はどうでしたか?

【下山田】
2シーズンいたのですが、想像以上に実りある2シーズンでした。
私は本来ディフェンスの選手なんですが、ドイツに行ったら監督に、「お前フォワードだぞ」と言われて
フォワードになったら、めちゃくちゃ楽しくて(笑)
2シーズン、それぞれ12得点ずつあげました。

【izm】
それは凄いですね!

【下山田】
得点を取る喜びを知って、サッカーが楽しくて、それに対する評価を得ることができて本当に充実した2年間でした。

キャリアとカミングアウト、日本を拠点にするきっかけ

【izm】
その充実したドイツから帰国したのはなぜだったんでしょうか?

【下山田】
サッカーは順調だったのですが、私個人を見つめ直した時に考えるところがあったんです。
ちょうど私がドイツに行った年が、ドイツで同性婚が認められた年で
ドイツは同性同士の恋愛に本当に寛容で、私は日本に帰って大丈夫だろうかと思ったのが一つです。

もう一つは一時帰国した時に知り合いから、「お前まだ親の脛かじってサッカーやってるの?」と言われたのがショックで・・・

海外ではきちんとプロとして扱われるけれど日本での女子サッカー選手は違うぞと突きつけられ、
楽しくサッカーをやってるだけではなくて真剣にキャリアを考えなくては駄目だと思いました。

【izm】
ドイツに留まろうという気持ちはなかったんでしょうか?

【下山田】
私個人だけを考えるとそうでも良かったのかも・・
ただ大義というか・・・一時帰国した時に、親にカミングアウトして認めてもらえたときに、
「ああ自由だ」と思えたんです。

今まで言えなかった事、嘘をついてきた事から解放されたのかな。
ちょうどドイツでは契約更新のタイミングで自由になれたし、オリンピックも近かったこともあり 色々発信していきたいと考えた時に帰るなら今かなと思いました。

LGBT関連の講演や、生理用パンツブランドの立ち上げ。葛藤もあった

【izm】
なるほど、では帰国してからはどんな事をされてますか?
スフィーダ世田谷でプレーしていらっしゃると思うのですが、今回はサッカー以外についてお伺いしたいです。

【下山田】
サッカー以外では2軸で、一つは個人でLGBT関連の講演会やインタビューに答えたり、という形で発信をしています。

もう一つは共同代表で株式会社Reboltを経営していて、「”普通”のない日々」を作り出すことで、「生き方の選択肢」を増やす事業を行っています。メインで動かしているブランド事業では、第一弾商品の吸収型ボクサーパンツOPTの販売をしました。

OPT | 第一弾吸収型ボクサーパンツ
https://twitter.com/opt_0fficial

※『吸収型ボクサーパンツOPT』のクラウドファンディングを4月5日よりGood Morningで開始。目標額の100万円を大きく超え、最終的に6,174,500円の支援総額となった。

【izm】
講演活動はどんなところで行われていますか?

【下山田】
一つは学校ですね、中学校や高校、大学でも講演しています。
あとは企業から「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマとした講演のお話もいただいきます。

【izm】
最近Yahoo!ニュース等で見たり、ナイキのスポンサードを受けたりと公人に近くなっていっているような気もしていますが、いかがでしょうか?

【下山田】
2020年はけっこう葛藤がありました。
確かに時勢もあって、発信していく価値があることはわかっているけれど、本当に自分がそれに見合っているのかと・・・
自己肯定感の欠如というか、サッカーのプレーも今ひとつで納得していなかったということもあるかもしれません。

【izm】
気持ちが整う前に、先に露出が増えすぎたのかもしれませんね・・・

【下山田】
ただ今年になってじっくりと考える時間も持てました。自分がやりたくてやっている事だし絶対に社会のためになると思えて。やるなら胸を張ってやっていこうと思えるようになりましたね。

【izm】
なるほど。 では経営されているレボルトのお話を聞かせてください。

【下山田】
2019年10月に株式会社を立ち上げていますが、最初は知識も核となる事業もなく、パッションしかありませんでした。

私も内山も、海外でプロを経験したからこそ、日本の女性アスリートの価値の低さに問題意識が強くて。
女性スポーツ界にいるからこそ気がつく社会課題に対して、自分たち自身が声を上げていこうと考えた結果、まずは生理を軸に事業を始めようとなりました。

スポーツ界で起きていることは、一般社会でも同じ。だからこそ自ら声をあげる

【izm】
ここで本題に入るんですが、アスリートと社会を繋ぐというテーマでお話を聞かせていただけますか?

【下山田】
アスリートと社会課題はすごく相性がいいなと思っています。なぜなら、スポーツ界で起きていることは、一般社会で起きていることとリンクしていると思うんです。 例えば、今開発している生理用品に関して言うと、スポーツしている時に、湿気のすごい夏場だったり雨の日でも生理用品をつけて競技しますが、普通のオフィスでも同じことが言えると思うんです。

それを男性に言うと、「確かに俺も夏場に股に紙挟んでプレーするのは嫌だな」ってすごく共感してもらえるのですが。

【izm】
なるほど。

【下山田】
これはスポーツをしているアスリートだけではなくて、オフィスで働いているような方でも同じような悩みを抱えています。長時間座り続けることで経血が漏れたり、蒸れが生じたり。それらの問題は、なかなか声を上げづらいものですが、アスリートが声を上げることで問題の可視化ができるのではと思っています。
アスリートの声は説得力と、ポジティブなパワーがあるので、私たちが代わりに声を上げる存在になれるはず。

なので、声をあげてその問題を可視化する事は私たちの役割だと思っています。

【izm】
社会問題は今、多種多様な物があると思いますが、
ジェンダーの問題を発信するのは、下山田さんが当事者であってそれが説得力を持って響く、ということなんでしょうか?

嫌だと思うことを言語化していく、自分事化していくために大切なこと

【下山田】
それはもちろんそうだとも思うのですが、それ以前に、嫌だなと思うことをいかに言語化するかが問題で言語化できないと課題にならないと思うんです。
スポーツ界でも、きちんと課題にしていかないとそんなの当たり前だろ、とかそんなの我慢しろよで済まされてしまうだからきちんと嫌なことを言語化して、課題にする事でそれが自分事化できるんだと思っています。

【izm】
確かに何となく「まぁ、いいか〜」みたいなのは多い気がします。
色々な問題をスポーツを挟むことによってイメージしやくすくなる気がしますね。
あと感じることは、スポーツ選手が発信することによって、応援してくれているファンの人たちとその社会課題が近くなる事もあるよね。

芸能人と同じだけど、やはり影響力は強いと思うのでドシドシ発信し続けて欲しいです!

女子サッカー選手として人間的にも憧れられる存在に

【izm】
では女子サッカー選手としてのキャリアをどう捉えてますか?

【下山田】
サッカーだけで生活していくと、それがなくなった時金銭面も含めてぽっかり穴が空いてしまうのが現実。
スポンサー企業で並行して働いていて、引退するときに「あれ、私は本当にこれで良いんだっけ?」と不安を抱えている選手を何人も見てきました。

つまり選手生活を送りながら、自分のやりたいことであったり 自分の課題を考えることで、将来の展望を含めた自分の軸を形成する必要があると思います。

【izm】
それは個人差がでそうですね・・・

【下山田】

女子サッカー選手が金銭面だけでの憧れの職業でなく、人間的にも憧れられるような存在にならないと駄目かなとは思います。
ただそれには選手個人やクラブのサポートだけでは無理があり、リーグを含めた外部が選手に対して学びの場を提供したり、キャリアを考える機会を与えてあげる事も必要だと思っています。

【izm】
今年はWEリーグが発足し、女子サッカーのプロリーグが誕生する記念すべき一年になるわけだけれど、
色々とこれから整備されていくとは思います。
その中で志帆さんには「女子プロサッカーとは」を自ら体現していく存在になってもらいたいと思ってます。

引き続き応援しています!

記事作成|山本真奈
医療機器の営業などを経て、現在は30分からジムが貸し切りできるレンタルジムに特化したプラットフォーム「THE PERSON」の広報。アスリートが持つ価値や想いを言葉にして届ける。

インタビュー担当|NPO法人izm理事 丸山龍也、五勝出拳一

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